離婚前提の妻でも溺愛されています
「あなたに僕の妻のことを悪く言われる理由はありません。このままお帰り下さい」

蒼真は女性を見据えてきっぱりと言った。

里穂は女性の顔をまじまじと見つめた。

蒼真は彼女を麗美と呼んでいた。蒼真の見合い相手の女性のようだ。

「少なくともこんな時間にいきなり現われるような非常識な相手と話をするつもりはない」

蒼真は語気を強め、言葉を続けた。

「でもっ。そんな女と結婚したって、蒼真さんにはなんのメリットもないじゃないですか。私なら蒼真さんの仕事の役に立てます。杏華堂にとって父の会社はなくてはならない会社ですよね。そんな女より私と結婚した方がいいってことは、誰でもわかります。いい加減、目を覚まして下さい」

前のめりに話す麗美に、蒼真は冷たい目を向ける。

「見くびらないでほしい。俺のことを妻の力がなければ仕事ができないような男とでも思っているのか？」

「そ、そんなことは……」

一瞬で空気が変わってしまうような蒼真の怜悧な声に、麗美は言葉を飲み込んだ。

「それに、一応伝えておくが、俺が彼女に惚れて口説いたんだ」

言葉は丁寧だが声には怒りが滲んでいる。里穂とつないだ手にもぐっと力がこもり、痛いほどだ。

「彼女をバカにするようなことは言わないでほしい」

「噓よ。絶対に噓。そんなこと信じられない」

麗美は顔をしかめ、何度も首を横に振る。

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