離婚前提の妻でも溺愛されています
「お姉ちゃんが日本に帰ってるって知ってる? もしかして会う約束でもしてるとか?」

芝居じみた麗美の声に、蒼真は肩を落とす。

「俺がなにを言っても信じないようだが、俺と沙耶香は大学時代からの単なる友人だ」

「うそよっ。蒼真さんはお姉ちゃんのことをずっと」

「それに妻と一緒にいられる大切な時間を犠牲にしてまで会いたいと思う相手はいない。もちろん沙耶香にも会うつもりはない」

蒼真の力強い声に、麗美はぐっと声を詰まらせた。

それは里穂も同じ。蒼真の甘い言葉に息が止まりそうになる。

けれど、それが本心ではないこともわかっている。

どこまでも食い下がる麗美を突き放すためにそう言っているだけのこと。

本気で言っているわけじゃない。

「だから君の思い込みでこれ以上俺たちを振り回すのはやめてほしい。それに君との見合いの話は初めから断っていて、俺はもう結婚しているんだ。二度と俺の前に現われるな」

蒼真は厳しい声でそう言い捨てると、里穂の肩を抱きマンションへと歩みを進めた。

足元をよろけさせながら振り返ると、麗美が顔を大きく歪ませ立ち尽くしている。

「そんなこと言って、パパの会社と取引できなくなって困るのはそっちでしょう? それでもいいの?」

深夜の高級住宅地に、場違いな声が響く。

麗美の凄みのある声に不安を感じ、里穂はとっさに蒼真の身体にしがみついた。

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