離婚前提の妻でも溺愛されています
「そんな女のどこがいいのよ。私の方が絶対にメリットがあるのに。ふん、せいぜい今のうちに蒼真さんにに甘えておけばいいわ。私、どんな手を使ってでも、絶対にあきらめないから。本気よ」

一段と激しい言葉が辺りに響き、里穂はピクリと身体を震わせた。

「どんな手を使ってでも?」

麗美が鬼のような形相で里穂を睨み付けている。

そのあまりにも異様な様相に、里穂は身をすくませた。

人からこれほどの憎悪を向けられるのは初めてだ。

それも今日初めて顔を合わせたばかりの相手から。

訳がわからないだけに不安は大きく恐怖さえ感じる。

それほど彼女は蒼真と結婚したかったのだろうか。

話を聞く限り麗美は常務が推している単なる見合い相手だと理解していたが、それは間違いなのかもしれない。

「大丈夫だ」

蒼真の力強い声が耳に届いたと同時にさらに強い力で抱き寄せられ、里穂はいつの間にか止めていた息を吐き出した。

麗美の怒りに歪んだ顔や甲高い声。

思い出すだけで鼓動が速くなる。

「怖い思いをさせて悪かった」

エレベーターに乗り込んですぐ、蒼真はそう言って里穂を胸に抱きしめた。

「いえ……だ、だ……」

大丈夫ですと続けるつもりがうまく言えず、口ごもる。

おまけに手足も微かに震えている。

「説明させてくれないか?」

蒼真は里穂の肩に顔を埋め、くぐもった声でささやいた。





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