離婚前提の妻でも溺愛されています
自宅に帰ってすぐ、里穂は入浴を済ませて気持ちを落ち着かせた。

今も麗美から向けられた厳しい表情を思い出すと鼓動が不規則に跳ねるが、ここは巨大なタワーマンションの最上階。

物理的に距離を取っただけでなく、万全のセキュリティという安心感に支えられて、冷静に考えられるようになった。

もちろん蒼真がそばにいてくれるという心強さが、気持ちを整えられた一番の理由だ。

「これって、本場じゃないですか」

里穂は蒼真から手渡されたタブレットに表示されている写真を眺めながら、驚きの声をあげた。

そこに映っているのは、ズラリと並ぶ屋台を背に白い歯を見せる蒼真だ。

蒼真の傍らには十人ほどの男女が弾けるような笑顔を見せていて、どの顔も楽しそうだ。

目に鮮やかな色合いの城のような建物も映り込んでいて、これぞ台湾という風景だ。

「詳しいのかなと思っていたんですけど、行ったことがあったんですね」

「大学の卒業旅行で行ったこの一回きりだ。人に優しい居心地のいい場所だった」

思い返すようにつぶやく蒼真の表情は穏やかだ。目を細め、口元にも柔らかな笑みが浮かんでいる。

よほど楽しかったのだろう。

「これが恭太郞」

蒼真は画面の真ん中、ピンクのアフロヘアにサングラス姿の男性を指さした。

「雑貨屋で見つけたこのカツラが気に入って、調子に乗ってるところだな」

「なるほど」

< 160 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop