離婚前提の妻でも溺愛されています
「海外に興味があって、時間があればリュックひとつで飛行機に乗っていたな」

フットワークが軽く、どこにでも飛んでいきそうなイメージだ。

自分とは真逆のイメージの沙耶香に、里穂は胸の奥がモヤモヤするのを感じた。

同時に頭に浮かんだのは、蒼真が今も沙耶香を好きだったと言っていた麗美の言葉だ。

思い出すだけでモヤモヤどころか痛みを感じる。

「里穂」

蒼真はソファの上でうつむく里穂の顔を覗き込んだ。

「沙耶香は常務の奥さんの姪。大学で偶然顔を合わせてからは親戚だということもあって親しくしていただけの、単なる友達。さっき麗美さんが馬鹿げたことを言っていたが、俺と沙耶香の間にそれ以上の感情はない」

里穂に身体ごと向き合い、蒼真は真剣な眼差しで説明する。

「沙耶香は両親とうまくいってなくて大学に入学したタイミングで家を出たんだが、卒業して俺との見合い話が持ち上がった時に家族に見切りを付けてさっさと結婚した。今はアメリカで働いてる」

「結婚されてるんですか?」

麗美の話しぶりからそれは想像していなかった。

それに、蒼真と沙耶香の間に見合いの話が持ち上がっていたことも、今初めて知った。

だとすれば、沙耶香の代わりに妹の麗美が蒼真の見合い相手として常務に推されているということだろうか。

想定外の情報ばかりが飛び込んできてうまく整理できない。

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