離婚前提の妻でも溺愛されています
「三年ほど前だな。当時付き合っていた恋人のアメリカ転勤が決まって、結婚してアメリカに行ったんだ。友達の結婚式に呼ばれて今ひとりで帰国してると母さんに連絡があったみたいだが、俺と会おうなんて話は出ていない」

「杏さん?」

ここでもまた意外な名前を聞かされて、里穂はさらに混乱する。

「母さんのあの性格、わかるだろ。面倒見がよすぎるんだ。両親とうまくいっていない沙耶香を気にかけて、大学時代も今も連絡を取ってる。親戚だから心配だとか言ってるが、他人のことも放っておけないあの性格、どうにかならないか……まあ、尊敬してるが」

蒼真は仕方がないとばかりに肩を竦め、苦笑する。

口では杏のことを愚痴っていても本音では彼女を認めているのだ。

「母さんは麗美さんのことも気にかけているみたいだが、そっちはうまくいってないみたいだな」

「そ、そうなんですね」
 
不意に麗美の名前を耳にして、心臓がトクリと音をたてる。
 
身体は正直だ。あれだけの憎悪を向けられてストレスを感じているのか、口ごもってしまった。

「里穂?」
 
黙り込んだ里穂を、蒼真が心配そうに見やる。

「大丈夫です。今まで麗美さんみたいな人に会ったことがなくてびっくりしただけです」

それに蒼真と沙耶香に特別ななにかがあると匂わされて、動揺していた。
 
けれど蒼真から事情を聞いた今、その動揺もかなり収まっている。
 
< 163 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop