離婚前提の妻でも溺愛されています
気を抜いていた時に麗美の名前を聞いて、過剰に反応してしまったようだ。

「ごめんなさい、でも蒼真さんが説明してくれたから、もう平気です。もしもまた麗美さんに会ったら、私もハッキリと――」

「悪い」

「えっ」

絞り出すような声が聞こえたと同時に蒼真の両手が伸びてきて、気がつけば蒼真の胸に顔を埋めていた。

「あの、蒼真さん?」
 
とっさに顔を上げようとしても、あまりにも強く抱きしめられていて動けない。
 
なにが起きているのかわからないまま、里穂はまばたきを繰り返した。

面倒なことに巻き込んで、申し訳ない」
 
苦しげな蒼真の声が頭上から聞こえてくる。

「あんなことを言われて、怖がらせて悪かった」

「あんなこと」

〝どんな手を使ってでも、絶対にあきらめない〟

麗美の凄みのある声を思い出した。
 
その瞬間、不安や恐怖が全身に広がるのを覚悟したが、意外にもなんの変化もなく落ち着いている。
 
多少の戸惑いはあるものの、自分でも驚くほど気持ちは穏やかで、安定している。
 
それはきっと、今こうして蒼真に抱きしめられているからだ。
 
蒼真がいれば、なにが起きても大丈夫。
 
そんな安心感と絶対的な信頼感が、心の中に広がるはずの不安や恐怖を押しやって、里穂を守っている。
 
思い返せば小山から持ち込まれた提案をきっぱり断れたのも、蒼真が目の前で見ていてくれたからだ。
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