離婚前提の妻でも溺愛されています
ベッドの中にいるせいで、自然と目線の高さが同じになる。

蒼真の目になにもかもを見透かされそうで落ち着かず、里穂はとっさに視線を泳がせた。

「いえ……なんでもないんです。私は大丈夫です。心配はいりません」

本当は、蒼真に抱かれてうれしかったと伝えるつもりが、言葉が続かなかった。
 
蒼真の気持ちを察して言えなかったのだ。
 
これほど身体の具合を気遣われ、里穂が喜びそうな言葉をかけられても。

そしてあんなに激しく抱かれても。

蒼真から、一度も好きだと言われていない。

そのことが頭に浮かんだ瞬間、なにも言えなくなってしまった。
 
抱かれてうれしいなどと伝えれば、勘がいい蒼真のことだ、そこから里穂の想いを察して、それに応えられない自分を責めるに違いない。

それだけは、避けたい。
 
期間限定でいずれ離婚するはずのこの結婚で、好きになるのは里穂のわがままだ。

そのわがままで、蒼真を困らせたくない。
 
昨夜里穂を抱いたのはきっと、麗美のことで不安を感じ混乱する里穂を落ち着かせるためで、そこに優しさはあっても愛はない。
 
もしも蒼真が里穂と同じ気持ちなら、好きだと伝えてくれるはずだから。

「里穂? 気分でも悪いのか」
 
黙り込む里穂の顔を覗き込み、蒼真が真剣な眼差しで声をかける。
 
どこまでも里穂を心配し優しすぎる蒼真に、里穂の胸が痛む。

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