離婚前提の妻でも溺愛されています
「まあ、家もお店も綺麗になるからそれでよしとしようか。予算第一でもう一回見て回ろう。お姉ちゃんはどれがいいと思う?」

それまでのうっとりしていた表情から一変、雫はキリリとした顔で里穂に声をかけた。

「私は、そうだな。向こうにひとつ気になる――」

「どれでも気に入ったものを選んで下さい」

「え?」

突然割って入ってきた声に振り向くと、蒼真が立っていた。

「蒼真さん、あの、どうして」

仕事中のはずの蒼真が突然現われて、里穂は目をまたたかせる。

「打ち合せで近くに来たから、ちょっと寄ってみたんだ」

「そうなんですか。わざわざすみません」

「いや、かまわない。それより」

蒼真は里穂の傍らに立つと、佳也子と雫に向き合いゆっくりと口を開いた。

「費用は僕がすべて引き受けます。だからそのことは考えずに気に入ったものを選んで下さい」

「でも、それはちょっと図々しいし、やっぱり遠慮します。自宅の設備くらい私のお給料でどうに――」

「店の改装を決めた時からそのつもりだったんだ。だから遠慮するな」

雫の言葉を遮り、蒼真はきっぱりと告げる。

その語気の強さに里穂も雫もたじろいだ。

「蒼真さん、ありがたいお話ですけど、そんな図々しいことはお願いできません。お店の改装費用もいつお返しできるのかわからないのに、申し訳ないです」
 
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