離婚前提の妻でも溺愛されています
聞き覚えがある毒を含んだ声が耳に飛び込んできて、里穂は一瞬で全身が強張るのを感じた。

「麗美さん」
 
思い切って振り返ると、予想通り、麗美が目の前に立っていた。

丁寧にメイクを施した顔はまるで人形のように整っていて、美しい。

身体にフィットしたニットのサマーセーターとタイトな白いジーンズが、彼女のスタイルのよさを強調していて、そこに高さ七センチはありそうなハイヒール。

全身に気を使っているのがよくわかる。

「私が言った通りでしょう?」

麗美はエレベーターを顎で示しながら、肩をすくめた。 

その瞬間、昨夜投げつけられた言葉が蘇り、里穂はじりじりとあとずさった。

「あら、怖がらなくても大丈夫よ。バカじゃないから暴力に頼るようなことはしないって決めてるの。被害者面されて訴えられても面倒だし」

相変わらずの刺々しい言葉に、里穂は顔をしかめた。

「それより、今蒼真さんと一緒にいたの、私の姉よ。アメリカから帰国してる沙耶香」

里穂はハッとエレベーターに視線を向ける。もちろんふたりの姿は見えない。

「蒼真さん、わざわざ会社を抜けてまで会いに行くんだもの、やっぱり今も忘れられないみたいね」

麗美は大袈裟な口ぶりでそう言って、クスクスと笑い声をあげる。

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