離婚前提の妻でも溺愛されています
「教えてあげましょうか? 夕方杏華堂の近くで蒼真さんを待ち伏せしてたら血相を変えた彼が飛び出してきたの。あとをつけたら近くのカフェで姉と待ち合わせしていてね、泣いてる姉をタクシーに乗せてここに来たってわけ」

なにが楽しいのか、麗美はひどく楽しげに語っている。

蒼真との結婚を望んでいる口が言っているとは思えない言葉に、里穂は眉を寄せた。

「あんなに切羽詰まった蒼真さんの顔、見たことないわ。よっぽど姉のことが心配でたまらないのね。わざわざホテルに連れてくるなんて、絶対姉のことを忘れてないのよ」

まるでそれを喜んでいるような口ぶりに、里穂は違和感を覚えた。

「姉ももしかしたら後悔してるかも。両親に勘当されてるから帰国しても実家には帰れなくてホテル住まい。おまけに結婚相手は普通のサラリーマン。ふん、後悔なら存分にすればいいのよ。だけど絶対に蒼真さんは渡さない。彼と結婚するのは私なんだから」

「麗美さん?」

これまでになく厳しい声と般若のような顔つき。

まるで姉のことを憎んでいるようだ。

それも心の底から

「だからあなたの出番は終わり。蒼真さんはあなたのことなんて愛してない。姉のことを忘れたくて自棄になって結婚しただけなの。考えてもみなさいよ、あなたみたいな庶民が、杏華堂の御曹司に相手にされるわけないのよ」

「それは……」

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