離婚前提の妻でも溺愛されています
里穂は言い返せず、言葉を詰まらせた。昨夜蒼真から聞いた話との違いに混乱している以上に、蒼真が里穂を愛していないという言葉が胸に突き刺さって言葉が出てこない。

「あら、ようやく目が覚めたのかしら?」

麗美は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、里穂の顔を覗き込んだ。

「私なら蒼真さんと並んでもつり合うし、なんの問題もないけど」

「だけど」 

問題ならある。

里穂は顔を上げ、鼻先で笑っている里穂に問いかけた。

「蒼真さんは沙耶香さんのことを忘れていないって今言いましたよね。そのことは気にならないんですか?」

蒼真との結婚を望むのなら、沙耶香のことは気になるはずだ。

夫が自分を愛していないどころか自分以外の女性を愛しているなど耐えられない。

それを問題ないと笑い飛ばす麗美のことが、里穂には理解できない。

「あ」

里穂はハッとし口元を歪めた。

それはまさに自分のことかもしれない。

蒼真は沙耶香は単なる友人だと説明していたが、沙耶香の肩を抱き客室へと向かう蒼真の真剣を表情を見た今、それを信じるのは難しい。

麗美が訴えるように、蒼真にとって沙耶香は今も忘れられない女性なのだろうか。

考えれば考えるほどその可能性が高いような気がして目眩すら感じる。

「どうでもいいのよ。誰を愛していようが、私が愛されてなくてもどうでもいい」

麗美のくぐもった声に里穂は顔を向けた。

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