離婚前提の妻でも溺愛されています
「そんなことありません。杏さんは会社のために、それに母さんみたいな人のためにずっと頑張っていて」

それまでじりじりと後ずさっていた距離を一気に詰め、里穂は語気を強めた。

杏華堂の社長夫人がどれほどの重責を担っているか、麗美は知らないのだろうか。

杏はメディカルメイクの普及のために力を尽くす一方で、社長とともに社交の場に出て走り回っている。

片手間にはできない重要な立場だ。

それを軽々しく一生楽しく暮らせるなどと言ってほしくない。

「とにかく、杏さんをバカにするようなことは言わないで下さい。あなたに杏華堂の社長夫人は務まらないと思います」
 
ここは冷静にならなければと思いつつも、杏の苦労や努力を知っているだけに我慢できず、つい言い返してしまった。

「へえ。そういうことを言えちゃうんだ。調べたけど、あなた蒼真さんのお金で店を改装するみたいね」

「それは」

そこまで調べていることに、里穂は麗美の本気を感じた。本気で蒼真と結婚したいのだ。

「おとなしい顔しておねだり上手なのはいいけど、結局それは手切れ金になりそうね。笑っちゃうわ」

「手切れ金なんて、いりません」

「ふん。どうでもいいけど、とっとと蒼真さんと別れてよ。姉に仕返しできる絶好のチャンスを邪魔しないで」

「仕返しっていったい」

< 193 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop