離婚前提の妻でも溺愛されています
悪意のある言葉の連続に不安を覚えながらも、それ以上に混乱していてなにをどう考えればいいのかわからない。

「蒼真さんの妻になるのは私よ。絶対にあきらめない」

強い口調でそう言い捨てた麗美は、里穂の反応を気にするでもなくさっさとホテルをあとにした。



麗美が姿を消したあと、里穂も自宅に戻った。
 
蒼真と沙耶香のことが気になりロビーで待つことも考えたが、契約結婚の妻でしかない自分に蒼真の恋愛に口を出す資格はないのだと思い出したからだ。
 
頭に浮かぶのは、いたわるように沙耶香の肩を抱いていた蒼真の切迫した表情。

沙耶香も躊躇なく蒼真に身体を預けていた。
 
ふたりは愛し合っているのかもしれない。

そう思わずにはいられないほどの緊密な空気がふたりの間に漂っていた。

こんなことなら蒼真を好きにならなければよかった。

それ以前に結婚の話を断っていればよかった。
 
家に帰ってからもずっと、頭の中をそんな思いがぐるぐる回っている。
 
その一方で、里穂や里穂の家族をとことん気遣い心を砕いてくれる蒼真の優しさを思い出すたび、事情があるのかも知れないと都合よく考えてしまう自分もいる。

『君を大切にするし、絶対に裏切らない』

結婚しようと切り出され時のあの言葉の意味は、いったいなんだったんだろう。
 
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