離婚前提の妻でも溺愛されています
ごちそうさまというのはこのことだったのだ。

ひとりテーブルに着いてだし巻きを頬張る蒼真を想像して、胸が温かくなった。

その時リビングに放り出したままのスマホが音を立てた。
 
確認すると、杏の名前が表示されている。

「もしもし。お久しぶりです」

【里穂ちゃんこんにちはー。久しぶりね。今話しても大丈夫?】

杏の朗らかな声が聞こえてきて一瞬で気持ちが盛り上がる。

「大丈夫です。なにかありましたか?」

来週予定されている講習会の件かもしれないと思いながら問いかけると。

【突然で申し訳ないんだけど、今から空港に来てもらえるかしら】

意外な答えが返ってきた。



初めて訪れる空港ターミナルは想像していたよりも百倍広く、混雑具合もかなりのものだった。

海外旅行の経験がない里穂にとってここは未知の世界。

ここがすでに海外のようだ。

スマホの地図で確認しながら杏に指定されたカフェにたどり着き、中を覗いてみると。

「里穂ちゃん」

窓際の席から杏が手を振っていた。

「遅くなってすみません。初めて来るので迷ってしまって」

杏のもとに駆け寄ってすぐ、テーブルを挟み座っている女性に気づいた。

「え……どうして」

見覚えのある顔に、里穂は動きを止めた。

すると女性は立ち上がり、里穂に向かって深々と頭を下げた。

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