離婚前提の妻でも溺愛されています
「動揺している私を励ましてくれたり、知り合いの政治家の方を通じて外務省に状況を聞いてもらったり。でも、それだけです。妹が言っているようなことはなにもないので、安心してください。それにあの子……妹も桐生君と結婚すると言っているようですけど、彼のことが好きなわけじゃないので、気にしないで下さい」

途中、目尻に残る涙を指で拭いながら、沙耶香が言葉を続ける。

化粧っ気のない彼女の顔はどちらかというと童顔で、綺麗というよりは愛らしいという印象だ。

蒼真たちとの卒業旅行で台湾に行った時の沙耶香の写真を見たが、当時と変わらないショートヘアだからか全然変わっていない。

それどころか若くなっている。

アメリカでの暮らしが充実していて、夫との暮らしを楽しんでいるのがわかる。

麗美が吐き捨てるように言っていた内容との違いに驚くと同時に、蒼真と沙耶香との間になにもないとわかって安心した。

昨日は離婚を切り出すほど思いつめたが、蒼真に聞かれなくてよかった。

「蒼真が里穂ちゃん以外の女性となにかあるわけないわよ」
 
杏がコーヒーを口に運びながら、笑顔を見せる。

「沙耶香ちゃんもそう思うわよね」

「それは、確かに」

杏と沙耶香が顔を見合わせ笑い声をあげる。

「夫の無事がわかった時、私ホッとして大泣きしたんですけど、桐生君も大切な人ができたから私の気持ちがわかるって涙を流してました」

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