離婚前提の妻でも溺愛されています
思い返すように、沙耶香が口を開く。

「昔から泣かないどころか笑うことも少なかったあの子のあんな顔、もう、びっくり。相当里穂ちゃんに惚れてるわね」

ひとり納得している杏に、里穂は目をまたたかせた。

感情を抑えがちなところは確かにそうだが、惚れているというのは違うような気がする。

「それにね」

沙耶香がそれまでの控え目な様子から一変、テーブル越しに身を乗り出し話し始めた。

「もしも里穂さんがテロや事故に巻き込まれたらと考えるだけでどうにかなりそうだって、声も震えていて。いつも落ち着いていてなにを考えているのかわからない桐生君が言ってるとは思えなくて。本当に驚いたんです。里穂さんのことがすごく大切なんだってすぐにわかりました。間違ってないわよね、桐生君?」
 
沙耶香は意味ありげに笑って、里穂の背後に視線を向けた。

つられて沙耶香の視線を追い振り返ると、蒼真が立っていた。

麻のセットアップのジャケットを手に、急いで来たのか軽く肩を上下させている。

「確かに間違ってないな。俺は里穂に相当惚れてる。もしも俺の目の前からいなくなったらと考えるだけで苦しくなるくらい、どっぷり惚れてる」

平然と語る蒼真の力強い声に、里穂は全身が熱くなるのを感じ、見ると杏と沙耶香は蒼真を見上げぽかんとしている。

すると表情を変えるでもなく淡々と蒼真は再び口を開いた。

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