離婚前提の妻でも溺愛されています
沙耶香は荷物を手に里穂に向き合った。

「今日はわざわざ来ていただいてありがとうございました。それに妹のことで面倒をおかけしてすみません。私からも彼女にはきつく言っておきます」

沙耶香はそう言って何度も頭を下げ、杏と連れだって店を後にした。

「コーヒーだけ、もらっていいか?」

蒼真は里穂の隣にどさりと腰を下ろし、ホッと息を吐いた。

「もちろんです。それにこれもどうぞ」

里穂はまだ手をつけていないミックスサンドを差し出した。

どうしてここに蒼真が現われたのかわからず混乱しているが、ここ数日のまさかの連続に、気持ちが麻痺したようだ。

理由など二の次で、ただこうして蒼真と一緒にいられるだけで十分だ。

「うまそうだな。里穂のだし巻きには敵わないだろうけど」

ミックスサンドを前に、蒼真はいたずらめいた笑みを浮かべる。

「そういえば」
 
冷蔵庫から消えていただし巻きを思い出し、里穂は蒼真に視線で問いかけた。

蒼真は小さく肩を竦めると。

「ごちそうさま」

少し気まずげに、それでいて幸せそうに笑った。

「お仕事は大丈夫なんですか? 忙しいのに迎えにきてくれてありがとうございます」

助手席から声をかける里穂に、蒼真は視線を前に向けたまま「問題ない」と苦笑しながら答えた。

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