離婚前提の妻でも溺愛されています
昨日から明け方まで、沙耶香と蒼真、そして杏がホテルの部屋に詰め、沙耶香を気遣いながら交流がある議員やアメリカの知人を通じて情報収集をしていたらしい。

そうとも知らず、ひとり勘違いして鬱々としていた自分を叱り飛ばしたい。

「なに言ってるんだよ」

蒼真は大通りを左折し繁華街近くのパーキングに車を止めた。

「もしも里穂が俺以外の男とホテルにいるのを見たら、俺だって誤解するはずだ。いや俺ならその男を殴ってでも里穂を奪い返しに行く」

大きく顔を歪め、蒼真は語気を強めて言い放つ。

普段の落ち着いた蒼真とはまるで違う荒々しさに、里穂は声を詰まらせた。

「まあ、昨日までの俺ならこんなこと絶対に言ってなかったな。思っていても口には出せなかった。慣れてないし、正直照れくさいし」

表情を和らげた蒼真に、里穂も詰めていた息を吐く。

「だけど、旦那を心配して苦しんでる沙耶香を見たら、怖くなったんだ。いつ大切な人が目の前からいなくなるかわからない。そう思うと慣れてないとか照れるとか、どうでもよくなった。伝えられる時に気持ちを伝えておかないと、あとで後悔する」
 
蒼真は込み上げる想いを吐き出すようにそう言うと、シートベルトを外し、身体ごと里穂に向き合った。

「里穂」
真摯な気持ちが滲む声で名前を呼ばれ、里穂の心臓がトクリと音を立てる。

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