離婚前提の妻でも溺愛されています
蒼真は里穂の背中に手を回し、彼女の存在を確かめるように何度も上下させる。

そう言えば、と思い出す。

今朝も蒼真は里穂がここにいるのを確かめるように何度も名前を呼び、背中を撫でていた。

「里穂」

愛おしげにそう呼ばれて、里穂は大きくうなずいた。

今ならわかる。

昨夜ひと晩、沙耶香の夫を想い苦しむ姿を見ていて、里穂の存在を確かめずにはいられなかったのだ。

里穂はさらに強く蒼真の身体にしがみついた。

すると蒼真は里穂の身体を引き離すと、触れ合うだけのキスを落とした。

そして蒼真は里穂の手を取り視線を合わせた。

「本当の夫婦の証、選びに行こうか」

色気のある眼差しに、里穂はコクリとうなずいた。

本当の夫婦の証。

ふたりで選んだ結婚指輪は、抑制が効いたプラチナの輝きの中、ひと粒のダイヤがひっそりと添えられた上品なデザイン。

サイズ直しと刻印を依頼する蒼真の幸せそうな横顔を見ながら、里穂は本当の夫婦として蒼真のそばにいられる喜びをかみしめていた。



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