離婚前提の妻でも溺愛されています
調理場から雫と恭太郞の朗らかな声が聞こえてきた。

使い勝手を確認するために、今日はとりあえずご飯を炊き、豚汁とだし巻き、そして鮭を焼いている。

結果、問題なく来週のオープンを迎えられそうだ。

それにしても、と里穂は身につけた真新しいエプロンを眺めながら苦笑する。

ふたりが里穂に内緒でデザインしたささはらのロゴ入りエプロン。

紺地に白い文字が鮮やかでぱっと目を引き、里穂も気に入っている。

とはいえ店のことを考えてくれるのはありがたいが、ふたりにはふたりの生活がある。

雫を気遣って無理をして店を手伝う必要はないと、考えている。

おまけに年明けの入籍を前に、ふたりは来週からこの家の二階で同居を始めるのだ。

里穂が結婚したのでそろそろ近いだろうと予想していたが、まさかここで暮らすとは思わなかった。

恭太郞の実家は国内有数の飲料水メーカーで、恭太郞の兄がいずれあとを継ぎ、姉は弁護士として活躍している。

恭太郞は結婚も仕事も自由にしていいと言われていて、雫も恭太郞の家族にかわいがれていて安心だ。

それに恭太郞の姉からは今後ささはらの顧問弁護士として相談にのるとまで言ってもらえていて、うれしいことばかりが続いている。

ただ、想定外だったこともある。

「お義母さんって、今日もカラオケ?」

恭太郞の問いに、雫がうなずいている。

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