離婚前提の妻でも溺愛されています
そろそろ十三時だ。

同業者との交流会に参加すると言っていたが、ゆっくり食事をしていて大丈夫なのだろうか。

「もしもお急ぎなら私のことは気にせず行って下さい」
 
心持ち急いで食べているつもりだが、そろそろ食べ終わる桐生と違って、里穂はまだお重の中に鰻もご飯も半分近く残っている。

「会場がここから歩いて五分もかからないので大丈夫ですよ。それに十五時スタートなので余裕です」 

「十五時……そうなんですか」

余裕があると聞いてホッとするものの、それにしてはかなり早く会社を出ていたのだと不思議に思う。

「ああ、そうですよね」

里穂の疑問を察したのか、桐生は表情を崩した。

「ささはらに行くつもりだったんですよ」

「うちに?」

桐生はニッコリ笑う。

「打ち合せがひとつ飛んで時間ができたので、ささはらで昼食をとってから交流会に行くつもりだったんですが。休みだと聞いて内心かなりがっかりしていました」

桐生は軽く肩を竦めそう言うと、食べ終えた重に蓋を被せた。

「そうだったんですか。すみません。だったら会社の前でお会いできてよかったです。来ていただいても無駄足に終わるところでした」

桐生は軽く微笑んだ。

「それに、うちの料理よりもこの鰻の方が疲れた身体にはよさそうですから。逆によかったかもしれませんね。それにしても本当においしいです」

里穂は残りの鰻を口に運んだ。

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