離婚前提の妻でも溺愛されています
雫と桐生のやり取りを聞いていた里穂が、カウンターの中から声を挟んだ。

「いいの。今日は恭太郞から部長と飲みたいから出張の後店に連れて来てって連絡があって来てもらったようなものだから」

「恭太郞君? ああ、そういえば」

里穂は思い出す。

雫の恋人の新名恭太郞は桐生の同期で、ふたりは小学校からの親友だと言っていた。

いつも朗らかでポジティブ。

太陽のように明るい笑顔でニコニコしている恭太郞と、今も 落ち着いた所作でコートを脱ぎ雫に預けている桐生が親友だとは意外だ。

ただ、世界的にも名が知られている超大企業である杏華堂の社長の長男で、次期後継者と目されている桐生と、国内有数の飲料メーカーの創業家に生まれた恭太郞。

生まれが似ているせいか、真逆の性格ながらもふたりの関係は盤石だと雫は言っていた。

とくに恭太郞は父親の会社ではなく桐生の会社に入社するほど昔から桐生のことが大好きで、雫が恭太郞と付き合い始めたのも、秘書として桐生の下にいる雫に恭太郞がひと目ぼれしたことがきっかけらしい。


「お姉ちゃん、このだし巻きも部長に持っていっていい?」

いつの間にかエプロンを身につけ調理場で動いていた雫が、皿にだし巻きを盛りながら振り返る。

「もちろん。よかったら金目鯛の煮付けもお出しする? でも、部長さんの口に合うかしら」

里穂は不安げに目を細めた。

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