離婚前提の妻でも溺愛されています
蒼真に歩み寄り、麗美は軽く頭を下げた。

「ありがとうございます。ですがこちらの方に招待状は用意していないはずです。どういうことでしょう」

蒼真は語気を強め、常務と麗美を交互に見やる。

「固いこと言うなよ。麗美さんはお前の遠い親戚でもあるんだ。だったら彼女は杏華堂の関係者。招待状なんていらないに決まってるだろ。ばかばかしい」

蒼真は眉間に深いしわを寄せた。

「そういう子どもじみたこじつけは、いつか常務の命取りになりますよ。会社のためにもご自身のためにもしっかり覚えておいて下さい」

まるで子どもに言い聞かせているようだとうんざりしながら、蒼真は諭した。

「とにかく、結婚するつもりはないのでいい加減にして下さい」

「まあまあ、今はそんなこと言っていても、そのうち結婚したくなるぞ。それに相手が麗美なら杏華堂の将来も安泰だ。なんといってもエスディー製薬のご令嬢だからな」

常務の言葉に麗美が誇らしげな笑みを浮かべるのを見て、蒼真は顔を強張らせた。

エスディー製薬は、応用性が高い顔料など、化粧品の原料を製造する老舗メーカーで、杏華堂とは創業当時から取引が続いている。

顔料以外にもいくつかの原料を仕入れているが、中には百パーセントエスディー製薬から仕入れているものもあり、重要な取引先のひとつとなっている。

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