離婚前提の妻でも溺愛されています
ただ、他にも一社から集中して仕入れている原料が複数あり、先代から続くこの仕組みに危機感を抱いている社員は多く、現在では蒼真を中心に徐々に仕入れ先を分散させようと改革を進めている。


「蒼真と麗美さんが結婚したら、杏華堂の将来は盤石だ。俺が社長になった時のためにもせいぜい仲よくやってほしいもんだよ。いや、ちょっと気が早いか」

満足そうに笑う常務に耐えきれず、恭太郞が笑いをかみ殺しながら背を向けた。

「ばかばかしい」

恭太郞とは逆に、蒼真は冷めた眼差しを常務に向けた。

社長である兄と十三歳の年齢差があるとはいえ常務はすでに五十二歳。

いい加減自分の能力を直視して、社長という重責を背負える器ではないと自覚してほしい。

杏華堂の将来だけでなく、世界に何万といる社員とその家族の将来にも影響があるのだ。

「何度も言ってますが、結婚する気はないのでいい加減にして下さい」

蒼真はげんなりしながら、麗美に顔を向けた。

「常務からなにを聞かされているのか知りませんが、何度来られても結婚はありえません。さっさとお引き取り下さい」

「蒼真っ。麗美さんに失礼なことを言うな。彼女と結婚すればうちに優先して原料が回ってくるんだぞ。勝手なことばかり言わずに会社のことを考えろ」

「うわっ。それってもしかして自分に言ってる?」

こっそりつぶやいた恭太郞と、蒼真は顔を見合わせ苦笑する。

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