離婚前提の妻でも溺愛されています
麗美が蒼真の腕を摑もうとしたタイミングで、雫が恐縮しながら声をかけてきた。

「常務、申し訳ありません」

雫は常務に一度頭を下げると、手にしていたスマホを蒼真に差し出した。

「今、連絡があったんですが。スケジュールの変更はOKですか?」

雫から受け取ったスマホには、明日打ち合せを予定している取引先の社長秘書からのメッセージが表示されていた。

社長の都合で予定を一時間遅らせてほしいという内容だ。

「その後の予定に影響はないと思いますが、日を改めてもらいますか? それとも承知のお返事をしておきましょうか」

明日は打ち合せのあと経済界のお偉方との会食に社長と出席する予定だったと思い出す。

「場所も近いし時間的に余裕もあるな」

「わかりました。承知でお返事しておきます。お話中、失礼いたしました」

雫は蒼真からスマホを受け取ると、常務と麗美に向かって深々と頭を下げた。

「本当、失礼な女ね。私が蒼真さんと話してるって気づいてたわよね。秘書かなんだか知らないけど、こっちの話が終わるのを待つのが常識でしょ?」

「失礼いたしました」

唐突に麗美の甲高い声が響き、雫は淡々と答え一度上げた頭を再び下げた。

「本当なら単なる社員のあなたが蒼真さんに簡単に話しかけられるわけないのよ。自分の立場をわきまえなさいよ」

「なに言ってるんだよ。立場ならそっちこそ――」

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