離婚前提の妻でも溺愛されています
「いい加減にして下さい」

雫をかばう恭太郞の声を遮り、蒼真は声をあげた。

「お帰り下さい。今後お会いするつもりもありません」

「な、なんだよ蒼真。そこまで怒ることないだろ。俺は蒼真と会社のことを考えてだな」

悪びれる様子もなくヘラヘラ笑う常務を軽く睨むと、蒼真は麗美にまっすぐ向き合った。

「何度来られても、見合いするつもりはありません。もちろん結婚なんて論外です」

「で、でも……」

「それでは、失礼します」

蒼真は悔しげに唇をかみしめる麗美に仰々しい仕草で頭を下げ、くるりと背を向けた。

社長や各国の大使たちが歓談している輪を見つけ、迷うことなく足を向けた。

外国語が苦手で社長とも関係がいいとはいえない常務が、そこまで追ってくるとは思えないからだ。

「あのわがままご令嬢、俺の雫によくもあんなことを言ってくれたな。今度来たら塩をまいて追い返してやる。いや、頭から一袋まるまるかけてやる」

蒼真のあとをついて歩きながら、恭太郞がぷんぷん怒っている。

「やめておけ、塩がもったいない」

どこかずれている恭太郞の言葉に、苛立ちで強張っていた蒼真の身体が一気に脱力する。

「そうよ。食べ物を大切にしないとお姉ちゃんに怒られるよ。皿洗いもさせてもらえなくなるかも」

恭太郞の傍らを歩きながら、雫がクスクス笑いながらたしなめている。

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