離婚前提の妻でも溺愛されています
蒼真はいつも、恭太郞に愛想のない態度を見せていたが、今の彼はまるで違っている。

恭太郞への友情を隠そうとせず、切実な思いを口にしている。

突然口調が変わったのも、恭太郞のことを相当心配しているからだ。

「恭太郞とは小学校の入学式以来の付き合いで、あいつも大企業の御曹司。わかり合うことは多かったし、あの明るい性格には何度も助けられてきたんだ」

なにか思い出したのだろうか、蒼真の表情が一瞬崩れ、口元が緩んだ。

それだけで、ふたりの関係の深さがわかる。

「だから、一日でも早く恭太郞を笹原と結婚させてやりたい」

「私も、雫には恭太郞君と早く結婚してほしいです」

里穂も力強い声で答える。

「雫も本当はすぐにでも恭太郞君と結婚したいはずだし、私に気を使う必要もないのに」

里穂は頭を抱えた。

雫が結婚しないのは自分のせいだ。

店を続けることだけで精一杯で恋愛どころではなかったが、こんなことなら客から何度か持ち込まれた見合いの話を受けていればよかった。


「だから、恭太郞と笹原のためにも俺と結婚してほしい。君が結婚すれば間違いなく笹原は恭太郞のプロポーズを受ける。それに、俺の見合いの話や恭太郞たちの結婚のことが片付いて、君がそれを望むなら。時期をみて離婚してもいい。今はひとまず前向きに考えてほしい」

「離婚……それは」

蒼真の言葉に、里穂は表情を曇らせた。

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