離婚前提の妻でも溺愛されています
「なんでもない。ただ、理由ならある。メディカルメイクのため、というより杏華堂の将来のために、それに恭太郞の幸せのために君の人生を俺に預けてもらうんだ。改装費用を用意するくらい当然。気にしなくていい」

「でも」

語気を強める蒼真に、里穂は口ごもる。

一度砕けた口調は変わらずそのままで、蒼真との距離がぐっと近づいたようで落ち着かない。

「ただ、あの、母がなんというか」

理由がなんであれ、費用を負担してもらうなど、認めるとは思えない。

「お母さんには俺が話をする。ただ、余計な心配をかけないように、メディカルメイクのことも笹原が結婚を渋っている話もしない方がいいだろうな」

「もちろんです。メディカルメイクの話は絶対にしません」

母の生きる糧のような存在なのだ、廃止される可能性があるなど絶対に知られたくない。

「俺と君が結婚を決めた理由はそうだな、俺が店に通ううちに君を好きになって口説き落とした。ということでいいな。実際、今日こうして口説き落としたわけだし」

「口説き落とされたつもりはないんですが」

得意げに話す蒼真を、里穂はあっけにとられ見つめた。

じりじりと蒼真に攻め込まれて落ち着かず、思考がまともに機能していない。

「時間がほしいです」

プロポーズから始まって、メディカルメイクのことや雫のこと。それに離婚の話まで。

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