離婚前提の妻でも溺愛されています
噓はついていないが知り合いというのが蒼真だとは言えず、心苦しい。

「桜もそろそろ散っちゃいそうだもんね。恭太郞、明日かあさってのお昼、花見がてら外で食べない? 駅のところの公園がいい感じで咲いてるはず。お弁当買って食べようよ」

里穂のぎこちなさに気づくでもなく、雫は声を弾ませている。

「いいな。だったら早速明日。写真を撮って蒼真に送りつけるのもいいな。羨ましがるぞ」

肩を揺らし笑う恭太郞と、満面に笑みを浮かべて肩を竦めている雫。

ふたりを包む柔らかな空気が流れてきて、里穂の胸がほっこり温かくなる。

「桜なら私も今日見たわよ。花音ちゃんがはしゃいでかわいかったの」

佳也子は雫たちの間に割り込むと、いそいそとスマホの写真を見せている。

「母さん……」

三人が並ぶ姿を眺めながら、里穂は目の奥が熱くなるのを感じた。

「花音ちゃんね、桜の花びらを浴びて天使みたいにかわいかったのよ。おじいちゃんがメロメロなんだって」

佳也子は見て見て、とばかりに恭太郞にスマホを押しつける。

屈託のないその笑顔を見ていると、いよいよ我慢しきれず涙がこぼれ落ちそうになる。

一年前の佳也子なら、家族以外に素顔を見せることは絶対になかった。

けれど今は、緊張感のないルームウェア姿、そして傷痕がはっきり見える素顔で恭太郞と笑い合っている。

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