離婚前提の妻でも溺愛されています
「桜の木の下でプロポーズなんて、ドラマみたいで素敵」

佳也子は両手を胸の前で組み、夢見るように目を細めている。

「もしかしたら蒼真さんの方が恭太郞くんよりもロマンチストなのかもしれないわね。雫の時はどんな風にプロポーズされるのかしら」

「母さん、私のことはいいから」

佳也子とは逆に、雫の表情は相変わらず晴れず、今も里穂と蒼真に探るような視線を向けている。

「もうひとつお願いがあるんですが」

蒼真は改めて背筋を伸ばし、佳也子と雫に顔を向けた。

「この先こちらの事情で里穂さんに負担をかけてしまう代わりというにはまったく足りないと思いますが、私に店の改装をさせていただけませんか? お店を今よりも安全で使い勝手がいいものに改装してこちらでの彼女の負担を少しでも減らしてあげたいんです。伯父の会社に依頼して費用も私が全額用意するつもりです」

「えっ? 改装ですか? それに全額って……」

それまで蒼真の話にじっと耳を傾けていた雫が、驚きの声をあげた。

「部長、それはおかしいです。改装の費用なんて、お願いできるわけないと思いますけど」

「確かに」

いぶかしむ雫に、蒼真はあっさりそう言って小さくうなずいた。

「笹原の言う通りだとは思うが、彼女のためになにかしてあげたいんだ」

「蒼真さん?」

これも今日話す予定のなかった言葉だ。

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