離婚前提の妻でも溺愛されています
里穂は目を瞬かせた。返済するのは当然のこととはいえ佳也子があっさり蒼真の申し出を受けるとは思わなかった。

「わかりました」

蒼真がホッとし表情を緩めた。

「具体的な返済の話はおいおい進めるとして、改装については早速取りかかるように伯父に連絡します」

「よろしくお願いします。ふふ、新しいお店、ちょっとわくわくするわね。雫も楽しみでしょ?」

「う、うん……」

声を弾ませる佳也子とは逆に、雫の表情は変わらずスッキリせず、里穂たちが結婚することにも納得できていないようだ。

するとその時、佳也子がそれまで投げ出していた足で正座をし、背筋を伸ばした。

後遺症が残る足での正座はかなりつらいはずだ。

里穂は雫と顔を見合わせた。

「夫が亡くなってから、里穂は家族と店のために自分のことは後回しで頑張ってくれました。今三人で笑っていられるのは里穂のおかげです。里穂は私の自慢の娘。幸せになってほしいんです。だから、里穂のことを、よろしくお願いします」

「母さん……」

深々と頭を下げる佳也子の小さな身体が震えているのに気づいた途端、里穂の目尻から涙がこぼれ落ちる。

佳也子の気持ちがうれしい反面、この結婚の理由を思い出してうしろめたさも感じる。

「頭を上げて下さい」

蒼真が佳也子に優しく声をかける。

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