離婚前提の妻でも溺愛されています
「里穂さんが今までご家族とお店のために頑張ってこられたことは、彼女から聞いています。それだけじゃなく、家族と一緒にいられるだけで幸せだとも言っていましたよ」

「あ……」

確かにそう言った。

というより、その気持ちは当たり前すぎてとくに意識して口にしたわけじゃない。

「私も初めて彼女に会った時から、幸せそうにお料理をされる方だなと思っていました」 

蒼真は里穂に優しく微笑むと、目を潤ませている佳也子に再び視線を向けた。

「これからは、僕たちふたりで幸せになります。安心して下さい」

甘く優しい、そして力強い声に、里穂は本気で蒼真から愛されているような気がして、全身が震えるのを感じた。





いったん話がまとまると、それからの動きは早かった。

結婚式が来年の四月に決まり、同時に店の改装に向けての打ち合せも始まった。

早々に建物の状態が調査された結果、店舗部分だけでなく二階と三階の住居部分も建て付けが悪かったり水回りが劣化していたりと手を入れる必要があるとわかり、急遽建物全体の改装を実施することが決まった。

完了までに三カ月以上かかるので、その間店は休業し、三人は家を出ることになる。

佳也子と雫のために蒼真が用意してくれたのは、店から歩いて五分ほどの場所にある中層マンション。

極力生活スタイルが変わらないようにと、蒼真が気を利かせてくれたのだ。

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