離婚前提の妻でも溺愛されています
「やっぱり四十階はすごく高いですね。周りになにも見えないので妙な気分です」

沈黙が気になって、つい意味のない言葉を口走る。

いわゆるタワーマンションの最上階。周囲の建物はどれもここよりも低く、窓からは空しか見えない。

「家は里穂が住みやすいように自由に手を入れてくれていいから」

「え、でも」

「俺はここには寝に帰るくらいなんだ。だから料理でもなんでも自由にやってくれていい」

「ありがとうございます。実は業務用にも負けない大きなオーブンがあるので気になっていて。それに使ったことがないキッチン用品も色々あったので使うのが楽しみなんです」

まだこの家で料理をしたことはないが、アイランドタイプのキッチンは昔からの憧れで、密かに楽しみにしていた。

「もともとかなりのグレードの設備だとは聞いてるけど、俺にはさっぱり。里穂が使ってくれるならちょうどよかったよ」

蒼真が入居する時に知り合いのインテリアコーディネーターに頼んで家具やキッチン設備すべてを整えてもらったらしいが、それから一年ほどたった今、キッチンにはまだ開封されていないキッチン用品がズラリと並んでいる。

気になるものの買えずにいたブレンダーやヨーグルトメーカーを発見した時は思わず手を叩いて喜んだ。

「そうだ」

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