離婚前提の妻でも溺愛されています
蒼真はそういいながら箱の中からシュークリームを取り出して、里穂に手渡した。

里穂の手の平よりも大きなそれは、カスタードがたっぷりでずっしりと重い。

「里穂のプリンも絶品だけど、これもうまそうだな。それにしてもかなり大きくないか?」

蒼真はシュークリーム手に取りまじまじと眺めている。

「ですよね。でもペロリと食べちゃうんです。これは家族全員大好きで、誕生日とか記念日には必ず家族でこれを食べるんです。笹原家の特別なスイーツってところです。雫なんて去年の誕生日に五つも食べて母に呆れられてました。でも、その気持ちもよくわかるんです。本当においしいんですよ」

わざわざ時間を割いてこれを用意してくれた蒼真の気遣いがうれしくて、つい饒舌になる。

ほんの少し前、沈黙を気にして意味なく話していたのが噓のようだ。

「だったら、記念日の今日にぴったりだな」

「記念日?」 

里穂は軽く首をかしげた。

「そうだろ?」

蒼真はシュークリームを手に、里穂の隣に腰を下ろした。

「婚姻届を提出した今日は、結婚記念日じゃないのか?」

「確かに。そうですね」

里穂はそうだったと気づいた。

今日は窓口が開く月に一度の日曜日だったので、片付けの合間に役所に足を運んだのだ。

もともと雫を納得させるためだけに結婚式よりも早く提出したようなもの。

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