離婚前提の妻でも溺愛されています
冷蔵庫にぎっしり詰め込まれた食材の中には普段里穂が扱うことのないブランド牛や高価な車エビもあり、これから数日、キッチンに立つのが楽しくなりそうだ。

「恭太郞君にあとでお礼のメッセージを入れておきますね」 

恭太郞は今日は雫たちの引っ越しを手伝っていたはずだ。

今頃雫と佳也子と三人でのんびりとお酒でも飲んでいるかもしれない。

それとも三人でシュークリームを食べているのだろうか。

調子に乗ってたくさんのシュークリームを頬張る雫を、愛おしげに眺めている佳也子と恭太郞。

三人の姿を想像した途端、胸の奥がきゅっと痛んだ。

この先、里穂がそこに混じることはない。

その事実に気がつき、里穂はうつむいた。

メディカルメイクの存続のため、そして雫と恭太郞が里穂に気兼ねなく結婚するために。

そのために決めた蒼真との結婚に後悔はないが、やはり寂しい。

引っ越しと婚姻届の提出が終わって気が緩んだのか、忙しさに紛れて気づかなかった寂しさが、一気に押し寄せてきたようだ。

「里穂の料理を独り占めしてるって知ったら、常連さんたち羨ましがるだろうな」

「え」

蒼真の声に我に返り、里穂は顔を上げた。

見ると蒼真はいつの間にかだし巻きを完食していて、満足そうな笑みを浮かべている。

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