離婚前提の妻でも溺愛されています
「料理だけじゃないな。常連さんたちみんなで大切に見守ってきた里穂を俺が独り占めしてるんだ。羨ましいどころの話じゃないか」

 蒼真は笑い、手元のお茶を飲み干した。

「里穂」

グラスを置いた蒼真は、それまでの柔らかな表情をすっと引き締めてると椅子の上で背筋を伸ばした。

「蒼真さん?」

つられて里穂も姿勢を正す。

「里穂、俺と結婚してくれてありがとう」

「あの」

突然真面目な表情で告げられて、里穂はきょとんとする。

「俺の、というよりも杏華堂のために里穂の人生を変えてしまった自覚はある」

「それは、違います。私の方こそメディカルメイクがなくなると困るし、それに雫の結婚のこともあって、だからお礼を言うのは私の方です」

おまけに店の改装のことでも蒼真には負担をかけている。

資金面でもそうだが、法律的な手続きについても施工を依頼した建設業者との間に入ってなにもかもを引き受けてくれているのだ。

蒼真の伯父の会社だからだとしても、ただでさえ忙しい蒼真にかかる負担はかなり大きい。感謝ばかりだ。

「それは、俺の方にもメリットがある。いや、俺の方こそ、だ。会社と親友。それを守るためだけに里穂との結婚を望んだんだ。だからこそ俺は里穂をこれからなにより大切――」

「だとしても。私にとって蒼真さんは恩人です。家族を助けてもらった大切な恩人なんです」

「恩人……?」

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