離婚前提の妻でも溺愛されています
「はい、そうです。蒼真さん、私と結婚してくれてありがとうございます。この恩は一生忘れません」
 
心からの言葉が口を突いて出る。

里穂はテーブルに額が触れるほど深く、頭を下げた。

「私は蒼真さんのお仕事のことを理解しているわけじゃないし、桐生家にふさわしいとも思えません。だから、せめて蒼真さんの足を引っ張らないように、努力します。それに、料理だけは任せて下さい。お店でも家でも、蒼真さんのために腕を振るいますね」

これはいわゆる便宜的な結婚。

いつまで続くのかわからないが、それでも蒼真のために、力を尽くしたい。

そう、今は家族で暮らしていた頃を振り返って感傷的になっている場合ではないのだ。

なにをおいても蒼真のために頑張らなければ。


「明日は車エビのお料理を考えているので、楽しみにしていて下さい」

言葉にもつい気合いが入る。

「それは……楽しみだな」

蒼真は何故か肩を落とし、気が抜けたようにつぶやいている。

「恩人、だとしても。俺と結婚してくれてありがとう。里穂のことは精一杯大切にするつもりだ」

テーブルの向こう側からきっぱりとした声が届く。

「あ……ありがとうございます」

語気の強さは想いの強さ。蒼真の決意が垣間見えたようで、胸がいっぱいになる。

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