離婚前提の妻でも溺愛されています
予想よりも大きくカスタードたっぷりのシュークリームは、恭太郞が熱心に勧めてきたのも納得のおいしさだった。

ただ、里穂は蒼真がわざわざシュークリームを用意した理由にピンとこないどころか今日役所に婚姻届の提出を済ませたことすらすっかり忘れていた。

結婚式を待たず同居を始めたのも婚姻届の提出を急いだのも、この結婚をどこか疑っている妹を納得させるため。

里穂にとって婚姻届の提出は、粛々と進めている結婚準備の単なる通過点。

記念日という意識などなかったのだ。

そう理解したと同時に。

『今日は俺たち桐生家の最初の記念日だな』

まるで里穂に言い聞かせるような言葉が口を突いて出た。

『笹原家同様、これから記念日にはふたりでこれを食べることにしないか?』

『俺たち、家族だろ?』

続けて口にした言葉に最初は戸惑っていた里穂も次第に表情をほころばせ、安心したような表情を浮かべていた。

「俺たち家族だろ、か……よく言うよ」

蒼真の乾いた声がリビングに響く。

メッセージとともに恭太郞から送られてきた写真には、仮住まいのマンションで笑顔を見せる雫と佳也子。そして恭太郞。

里穂がなにより大切にしている本当の家族が映っている。

引っ越し祝いをしていたのか、テーブルの上に飲み終えたワインボトルが見切れている。

普段はそれほどアルコールを口にしない恭太郞も、今日は飲んでいるようだ。

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