離婚前提の妻でも溺愛されています
両親と兄姉から愛され大切に育てられてきた恭太郞は、彼自身もかなり愛情深い。

恋人の家族は自分の家族。大切にするのが当然。

単純明快なその思いを隠そうとしない恭太郞の素直さを、蒼真が羨ましく思う時は多い。

写真の中の、顔をくしゃくしゃにした恭太郞の笑顔と、恭太郞の背後からしがみついている雫の手には食べかけのシュークリーム。

ふたりにとっても、今日は新しい暮らしが始まる記念日に違いない。

蒼真が用意したシュークリームなら、残り四つが冷蔵庫の中に入っている。

あとでもうひとつ食べると声を弾ませていた里穂は今、入浴中だ。

里穂は夕食の後片付けを終えて、この家で初めての入浴にかなり緊張しそわそわしていたが、機能の説明を聞いているうちに、みるみるその表情が変化した。

初めてだというジェットバスに感激し、家庭用サウナの存在に声を失うほど驚いていたが、里穂がなにより感動していたのは、湯船に浸かりながら星空を楽しめることだった。

『天然のプラネタリウムですね』

うわずった声で軽く飛び跳ねた里穂の姿は普段の彼女とはまるで別人のようで、目が離せなかった。

そして今日初めて彼女が見せた心からの笑顔に、ホッとした。

里穂を家族から引き離してしまった罪悪感が、ほんの少し小さくなったような気もした。

蒼真は窓際に立ち、地上に見える光の粒に目を凝らしながら、ため息を吐いた。

< 93 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop