離婚前提の妻でも溺愛されています
本来なら妻の実家のことにそこまでかかわる必要はなく、ましてや費用を全額負担するなどおかしな話だ。

それはわかっているが、自身の人生を蒼真に預けた里穂の覚悟を考えれば、これくらい大した話じゃない。

改装費用程度で里穂の悩みが少しでも軽くなるのなら、それでいい。

里穂がこの便宜的な結婚を受け入れてくれた礼として、店舗だけでなく住居部分の改装もすべて引き受けるつもりでいる。

「あの、お風呂、ありがとうございました」

遠慮がちな声に振り向くと、入浴を終えた里穂がリビングに顔を覗かせていた。

「残念ながら曇っていて星は見えませんでした。少し粘って眺めていたんですけど、あきらめました」

「残念だったな」

どおりで顔が赤いはずだ。長湯で首まで赤い。

蒼真は冷蔵庫から炭酸水を取り出しグラスに注ぐと、里穂をソファに座らせ手渡した。

「ありがとうございます」

よほど身体が火照っているのか、里穂はそれをひと息に飲み干した。

雫と恭太郞から結婚祝いだとプレゼントされた、レモンイエローのルームウェアがよく似合っている。

七分丈の袖口から覗く腕の色もほんのり赤く、よっぽど星を見ようと粘っていたようだ。

それともこうして蒼真とふたりきりになるのが照れくさくて湯船に浸かりすぎてしまったのか。

前者か、後者か。

「星ならこれから毎晩見られるさ。焦らなくていい」

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