離婚前提の妻でも溺愛されています
食事の支度はもちろん、家事いっさいを自分に任せてほしいという里穂の希望を受け入れてくれたのも大きい。

まずはそれまで依頼していたハウスクリーニングを断り、里穂に任せてくれた。

おかげで各部屋を掃除機を手に移動しているうちに家の中を緊張なく動き回れるようになり、どこになにがあるのかも理解できるようになった。

掃除の合間、蒼真の部屋の書棚にズラリと並んでいる経済書や化学雑誌などの難しそうな書籍の中に、里穂も好きな写真家の写真集があることに気づいた時、蒼真との距離がさらに近づいたと感じ、ワクワクした。

蒼真の気遣いは、他にもある。

里穂のために用意してくれていた部屋に、ピアノを設置してくれていたのだ。

メディカルメイクの講習会で演奏している里穂を見て、その場でピアノを用意しようと決めたそうだ。

アップライトとはいえかなり高価なプレゼントだ。簡単に受け取れるものでもない。もちろんうれしいが恐縮してしまい、どうお礼を伝えればいいのか戸惑ってしまった。

『休みの日に俺のために弾いてくれると、うれしい』

その言葉に応えるために、今は蒼真からリクエストされた曲の練習中だ。

そして、蒼真の気遣いは家の中のことに留まらない。

「今日はわざわざありがとうございます。夕食も店の料理になってしまって、すみません」

里穂は信号で車が止まったタイミングで、助手席から蒼真に声をかけた。

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