離婚前提の妻でも溺愛されています
蒼真は仕事が早く終わった日に、里穂を店まで迎えに来てくれることがあるのだ。

ふたりでタクシーで帰ることが多いが、金曜日の今日はいったん自宅に戻り車で店まで迎えに来てくれた。

時刻は二十三時。

深夜の大通りは空いていて、マンションまで二十分くらいで着きそうだ。

「店の料理もなにも、里穂がつくってくれた料理だろ? 今日もどれもうまかったし十分満足だけど?」

運転席から蒼真がチラリと顔を向ける。

「豚の角煮はとろとろで絶品だったな。常連さんたちと取り合いになったし」

「人気なんです。いつも多めに用意するんですけど、あっという間になくなっちゃって。今度は家でもつくっておきます」

蒼真がわずかに眉を寄せた。

「独り占めできるのはいいが、無理はしてほしくない。店に通って疲れてるだろ。家事もやってくれてるし」

「無理はしてません」

里穂は身を乗り出し答える。

「私よりも蒼真さんです。迎えにきてもらえるのはうれしいんですけど、大変ですよね。店じまいの時間を早めたし電車もあるので大丈夫です」

店の改装が始まるまでは店を開けるので、里穂はほぼ毎日店に通っているのだ。

「電車があっても遅いし心配なんだ。ひとりでタクシーに乗せるのも。なんなら遅くなる時とか疲れてる時はお義母さんのマンションに泊まっていいから」

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