カルテとコーヒー


取られた手が、
秀頼の胸に伸ばされる。


「実習の練習は大切だ」


そう言って秀頼が優子を見上げた。


「基本的なのはまずバイタル測定。
 ただ数値を見るだけじゃなく、
 フィジカルアセスメントをすること」

「フィジカル、アセスメント…」

「大事なのは、
 観て、聴いて、触れること」


直接触れて確かめるのも、
看護師に必要なスキルだ。

そう余裕そうに話す秀頼の胸は、
たしかにドキドキしている。


医学的に言えば、
やや心拍数増加。

そして何より、温かい。

見た目では気づかなかったが、
逞しい胸筋がまたずるい。

ましてや優子の意識は
看護的な触診というよりも、

腰に回された秀頼の腕と
見上げるその悪戯で綺麗な顔、

物理的距離の近さに
気を取られていた。


なんてずるい人…


ますます心拍数が上がり、
息苦しくさえある。

そしてついに、
抑えきれないものが、
ポロリと溢れた。


「…すき」

< 100 / 164 >

この作品をシェア

pagetop