カルテとコーヒー


そうか…いや、そうだよね。


呼吸器内科の医師や、
回っている学生までもが総動員しているのだ。

もちろんいるに決まっているだろう。

最後に見たのは、熱を出して寝込んだ姿だった。
久々の白衣は、あまりに破壊力が強すぎる。


か、カッコいいー…じゃ、なくって‼


我に返った優子は慌てて席を立って、
壁際に移動した。
教授が優子の空けた椅子に腰かける。


「瀬乃さん、ご機嫌いかがですか」

「いつもと変わりゃせんよ」


瀬乃は相撲から目を離さず答えた。


「そうですか?
 今日は随分楽しそうにされてますね」

「タカケイショウが勝ったんだよ」

「そうですか、そうですか」


教授はにこにこと答えてはいるが、
まるで興味なさげな言い方だ。


「藤原先生、何かありますかね」


今度は隣にいた秀頼に声をかける。
秀頼は顔色もすっかり良くなったようで、
瀬乃に目線を合わせて口元に
笑みを浮かべていた。


「瀬乃さん、主治医の藤原です。
 体調どうですかね。
 ちょっと胸の音聴かせていただけますか」


これが噂の、"微笑みの貴公子"…!


初めて本物を見て、優子の心中は大興奮だ。
しかもまさか瀬乃の主治医だったとは。
そんな些細な偶然も、優子は胸がときめく。

だが、そんな貴公子にも瀬乃の
ツンデレ(というよりは、ただただクール)
具合は容赦なかった。


「いつもと変わりゃせんよ」

「でも、念のために聴いておきたいんです」


テレビはタカケイショウの
勝利インタビュー真っ只中。
確かに瀬乃は目を離したくはないだろう。

そこでピンときた優子は、
にやっと笑って瀬乃にそっと耳打ちした。

優子の耳打ちする姿を、
教授や秀頼含め大勢が見守る。

優子はおかまいなしに瀬乃から顔を離し、
からかうように肩をツンツンとつついた。

すると、瀬乃は優子の思惑通り、


「はぁ~、あんたってやつは。ったく…」


とブツブツ言いつつも、
タカケイショウのインタビュー途中にも
関わらず、秀頼たちに向き直った。

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