カルテとコーヒー


たしかに、間質性肺炎に関しては
以前秀頼からみっちり教えられた。

その時もたしか、
呼吸音が咄嗟に答えられず
"お勉強が決定"したのだった。

だが実際に音を聴くのは初めてで、
おまけにこんな大勢が見る中のトライ。


「失礼します」


手で面を温めて、
服の下から胸の音を順番に聞いた。

緊張で自分の鼓動が聞こえるばかりな気がする。

だが、僅かに聞き取れる、
鼓動と息の流れる音とは別の、
パリパリとした冷めた音。


「ありがとうございます」


と耳から聴診器を離す。
すると、皮膚に埋もれた三白眼と目が合った。


「もういいのかい」

「ぁ、はい。大丈夫です」


そう言ってテレビの方に促すと、
瀬乃はまた「けっ」と言って
あぐらをかいてテレビを見始めた。


「それで、どうでしたか?」


教授に促され、
優子はゴクリと息を飲んで言った。


「はい。
 吸気、しゅ、終末時に…両下肺野で僅かに
 捻髪音が聴取されます。
 で、すが、間質性肺炎の特徴でも
 あ、り、ますので、
 今後も増悪しないか経過観察致します…」


暫くの沈黙が続き、
たまらず「い、以上です」と加える。

すると、


「素晴らしい!」


と満面の笑みで教授が拍手の動作をしていた。
隣にいる秀頼も「よくできました」と
言ってくれる時の顔で頷いていた。

ほっとして瀬乃の方を見ると、
ちらっと目が合った気がしたが
「ふん」と逸らされてしまった。

瀬乃のそんな反応が、
優子には一番肩の力が抜ける効果があった。

どうやら
"看護学生2年生 はじめての聴診!"
にしては、うまくいった方だったようだ。

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