カルテとコーヒー
甲高い声にはっとして目を開けると、
看護師が上から見下ろしていた。
「えっと、君は…」
「7東の上田です!
何度かお電話したんですけど」
「え…」
ピッチを確認すると、
たしかに着信が。
15分も寝ていたのか…
「それで?」
「瀬乃さんの熱が下がらなくて。
水泡音もかなり悪化しています。
ぐったりしていて、バイタルもよくなくて」
「サチュレーションは?」
「安静で90を切ることが増えました」
「とりあえず10Lいって様子見だな」
「…わかりました」
上田は頷いてから胸ポケットのピッチをとった。
だが、電話をかける前に動きをとめ、
じっと秀頼を見つめてきた。
「どうした?」
頭を掻いて立ち上がると、
上田の視線は秀頼を追いかける。
「いえ、先生、随分お疲れだなって」
「それは君も同じだろう」
「そうですけど。まだ帰れています。
先生は…?」
「…最後に帰ったのはいつだったかな」
小さくフッと笑うと、
上田はアイガード越しに同情の瞳を向ける。
しばらく黙ったままな上田に、
秀頼はなんだか居心地が悪く感じた。
よく見るとまだ若い。
やや茶髪のお団子ヘア。
どこにでもいる看護師像だ。
なのに、なぜこんなに見つめられるのか。
「えっと…」
「あ!すみません、私ったら。
あ、コーヒーでも淹れましょうか?」
「え、いや、大丈夫だ。
それより瀬乃さんに…」
「それは今から指示するので大丈夫です!
先生も少し休んだ方がいいです。
起こしちゃったお詫びにコーヒー淹れますね」
そう言って電話をかける上田に、
秀頼は首をかしげることしかできなかった。
参ったな…。