カルテとコーヒー


深夜1時を回った頃。
秀頼はマスク越しに、
久々に外の空気を吸った。

外気に触れたのは何週間ぶりだろうか。

今にも折れ曲がりそうな足の感覚。
どっと力が抜けた気がした。

数時間後には病院に戻らなくてはならないが、
今寝たら二度と目が覚めないのではと思うほどに
眠気と空腹が襲ってきた。

早く帰りたいのに、足が重い。
コンビニに寄る気力もなく、
気づけばいつもの倍以上の時間をかけて
アパートの前に着いていた。

ふと、向かいのアパートの一室を見上げる。

明かりはついていなかった。
さすがに寝ている時間だろうか。

いつもの秀頼なら考えもしない。
思いもしないようなことが頭を巡った。


相当疲れているんだな…


すぐ近くにいるのに、
顔を見られないことがもどかしく感じた。

きっと今連絡すれば、
優子は降りてくるだろう。

コーヒーが飲みたいと言えば、
喜んで持ってきてくれるだろう。

明かりがついて、窓が開いたら
自分はどんなに救われるだろうかとさえ思う。

だからこそだ。
部屋の鍵を取り出して、
エントランスのオートロックを開けた。

ピピッとなる音でさえ
自分の家だというのに懐かしく感じていた。

だが、数秒してから
滅多に鳴らない通知音がなった。

『宅配ボックスを、確認してください』

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