カルテとコーヒー
胸が一段と大きく上がった。
上手く呼吸はできている。
秀頼は反射的に優子の手を握った。
「水城、わかるか?」
優子の潤んだ瞳が、僅かに揺れた。
そして、しっかりと秀頼を捉える。
握った手に、ぎゅっと小さく力が籠った。
「ありがとう」と伝えているかのように。
その瞬間、秀頼はようやく
肩の力が抜けたのを感じた。
秀頼が優子に頷くと、
優子はまた目を閉じた。
ようやく周囲に意識が
向き始めたところで
看護師が作業したそうに
していることに気づいた。
ICUは部屋ではなく
カーテンでのみ仕切られている。
中央にあるスタッフステーションから
すべての患者が見えるように
なっているためだ。
潤がスタッフステーションにいるのを見つけて
秀頼は優子のそばを離れると、
背中でシャッと勢いよく
カーテンが閉められた。
ニヤッと笑う潤の隣に腰かけて、
秀頼は術後指示を入れるために
優子のカルテを立ち上げた。
患者を搬送して仕事終了の麻酔科医が、
秀頼の耳元で囁いた。
「"あのクールな藤原先生が…"」
秀頼はゆっくり潤に顔を向けると、
黙ってその目を睨み返した。
潤がククク…と小さく笑うと
秀頼はまたカルテに向き直った。
やるべき仕事は、
山のように溜まっているのだ。