カルテとコーヒー


瞬きをするのも忘れて、
秀頼のことを見つめていた。

それは、他の学生も同じようだった。

みんな秀頼が作成した資料も
それをスクリーンで映したパワーポイントも
全くと言っていいほど見ていないではないか。

ましてや隣にいる森山ですら、
珍しく柔らかい表情で秀頼を見上げていた。


秀頼の説明は、簡単な自己紹介から始まった。

・今年で30歳になること、
・ここの大学の医学部を卒業していること、
・研修医期間を経て、呼吸器内科に入局して3年目であること、
・実家は藤原総合病院で、次男であること、


「私の兄は麻酔科医なのですが、
 外見的不自由な同僚の女医に言い寄られており
 形成外科医に転身しようかと本気で考えているようです」


などと真顔ながらもユーモアを取り入れつつ、
すっかりみんなの心を掴んでいた。

面白いな、さすがだな、と思いつつも
全く頭に入ってこない。

そんな優子を見かねてか、
ざわついている空気の中で
(森山先生は今回に限ってなぜか何も言わない)
南が耳打ちしてきた。


「どうした?」

「ううん、なんでもないけど」

「そう?あの先生すっかり人気だね。
 真面目そうだけど、面白いし…」

「うん。
 あんな面白いこと、言う人だったんだ…」

< 17 / 164 >

この作品をシェア

pagetop